トカラ列島のボゼ

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05 — 秘祭

「日本のガラパゴス」に、
異形の神が現れる。

屋久島と奄美大島の間、鹿児島市からフェリーで丸一日かかることもある海域に、口之島から 小宝島まで7つの有人島が点在するトカラ列島(十島村)があります。独自の生態系から 「日本のガラパゴス」とも呼ばれるこの列島の一島、悪石島(あくせきじま)には、旧盆に 一度だけ現れるという異形の仮面神「ボゼ」の伝承が今も息づいています。

ソテツの葉と仮面をまとう、来訪神ボゼ

祭りの様子

盆の最終日、悪霊を祓う異形の神が集落を歩く。

旧暦の盆最終日の夕刻、悪石島の集落では「ボゼ太鼓」と呼ばれる合図の太鼓が打ち鳴らされ、 集落の若者が扮する3体のボゼが、山からゆっくりと姿を現します。ソテツの葉や木の皮で 作られた異形の仮面をかぶり、全身を植物の繊維や泥で覆い、赤・白・黒で塗り分けられた 顔には突き出た目と口が描かれています。手には「ボゼマラ」と呼ばれる赤い泥のついた棒を 持ち、これを人に押しつけて泥を塗りつけることで、災厄を祓うとされています。

迎え火とともに帰ってきた祖先の霊を、あの世へ再び送り出すためにボゼが現れる、という 解釈が一般的です。子どもたちは逃げ惑いながらもボゼに追いかけられ、泥をつけられることで 無病息災を願う――離島特有の閉じたコミュニティの中で、世代を超えて受け継がれてきた 奇祭です。

ユネスコ無形文化遺産: 「悪石島のボゼ」は、2018年に「来訪神:仮面・仮装の神々」 としてユネスコ無形文化遺産に登録された10件の行事のひとつです。同じグループには、 次のページで紹介する甑島のトシドンや、秋田のなまはげなども含まれています。

玄人受けする話題

「パプアニューギニアの精霊に似ている」という指摘。

ボゼの異形の仮面については、日本の他の来訪神とは一線を画す独特の造形から、民俗学や 文化人類学の分野でしばしば話題にのぼります。中でもよく語られるのが、パプアニューギニアの 一部地域に伝わる精霊の仮面と、造形上の共通点が見られるという指摘です。植物の繊維を まとった全身の造形や、原色でシンプルに塗り分けられた面といった要素が、南方の仮面文化との 連続性を思わせる、という見立てです。

断定はできない: こうした南方文化との類似性は、あくまで造形上の印象に 基づく指摘であり、両者の間に実証された系譜関係があるわけではありません。トカラ列島は 黒潮の通り道にあり、古くから海上交易や漂着によって多様な文化が行き交った可能性が 指摘される一方、ボゼの起源そのものは文献に乏しく、確定した定説は存在しません。

悪石島は近年、群発地震などの影響で観光ツアーの実施が見合わされる時期もありましたが、 状況が落ち着くたびに、地元住民の協力のもとでボゼを見学できる観光ツアーが再開されています。 アクセスの困難さそのものが、この祭りを「知る人ぞ知る」秘祭たらしめている面もあります。

次に読むなら

もう一つの来訪神、甑島のトシドン。

鹿児島県には、ボゼと同じくユネスコ無形文化遺産に登録された来訪神信仰が、もう一つ 別の離島に伝わっています。大晦日の夜だけ現れる、甑島の「トシドン」を紹介します。

甑島のトシドンを読む →

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ボゼの仮面

ソテツの葉と原色で作られた、異形の来訪神の姿。

オレンジと黒の縞模様に彩られた、大きな耳を持つボゼの仮面
ボゼの仮面(再現・展示例)悪石島の来訪神
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