祭りの様子
大晦日の夜、甑島の各集落では、赤い顔に長い鼻、大きく裂けた口を持つ木製の面をかぶり、 藁の衣をまとった「トシドン」が、馬(本来は馬の代わりに人が扮する)に乗って、あるいは 徒歩で家々を訪ね歩きます。家に上がり込んだトシドンは、その家の子どもの一年間の行いを あらかじめ親から聞き出しており、「言うことを聞かなかったそうだな」「勉強はしたか」などと、 驚くほど具体的に一年間の出来事を言い当てて、子どもを諭します。
恐怖のあまり泣き出す子どもも少なくありませんが、最後にトシドンは子どもの背中に 「歳玉(としだま)」と呼ばれる大きな丸い餅を背負わせ、「来年もよい子でいるように」と 言い残して去っていきます。この歳玉こそが、現代の「お年玉」の語源のひとつともいわれる 風習です。恐怖と祝福がセットになっているのが、トシドンという来訪神の大きな特徴です。
文化的な評価
「甑島のトシドン」は1977年に国の重要無形民俗文化財に指定され、2018年には前述のボゼと 同じく、「来訪神:仮面・仮装の神々」としてユネスコ無形文化遺産に登録されました。 年に一度、異形の姿をした神が人間界を訪れ、人々を戒めたり祝福したりして去っていくという 「来訪神」信仰は、日本各地の離島や山間部に点在しており、甑島のトシドンはその代表格の ひとつに数えられています。
しかし、この行事は決して安泰というわけではありません。過疎化と少子高齢化が進む甑島では、 トシドン役を担う若者の減少や、対象となる子ども自体の減少により、集落によっては行事の 継続が難しくなっているところもあります。ユネスコ登録は、こうした行事の価値を国際的に 認めると同時に、その存続の危うさを浮き彫りにする結果にもなっています。
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長い鼻と、藁をまとった異形の来訪神。