甑島のトシドン

トップ / 甑島のトシドン

06 — 秘祭

大晦日の夜、
鬼が子を諭しに来る。

薩摩川内市の沖に連なる甑島列島。竜のような形の断崖と奇岩で知られるこの島には、 大晦日の夜だけ家々を訪れるという来訪神「トシドン」の伝承が、集落ごとに姿を変えながら 今も受け継がれています。なまはげと似ているようで、実はまったく異なる、独自の 「歳の神」信仰です。

長い鼻とツノを持つ、トシドンの面

祭りの様子

「良い子にしていたか」と、一年分を問いただす。

大晦日の夜、甑島の各集落では、赤い顔に長い鼻、大きく裂けた口を持つ木製の面をかぶり、 藁の衣をまとった「トシドン」が、馬(本来は馬の代わりに人が扮する)に乗って、あるいは 徒歩で家々を訪ね歩きます。家に上がり込んだトシドンは、その家の子どもの一年間の行いを あらかじめ親から聞き出しており、「言うことを聞かなかったそうだな」「勉強はしたか」などと、 驚くほど具体的に一年間の出来事を言い当てて、子どもを諭します。

恐怖のあまり泣き出す子どもも少なくありませんが、最後にトシドンは子どもの背中に 「歳玉(としだま)」と呼ばれる大きな丸い餅を背負わせ、「来年もよい子でいるように」と 言い残して去っていきます。この歳玉こそが、現代の「お年玉」の語源のひとつともいわれる 風習です。恐怖と祝福がセットになっているのが、トシドンという来訪神の大きな特徴です。

なまはげとの違い: 秋田のなまはげが「怠け者を戒める鬼」として集落を練り歩く のに対し、トシドンは各家庭の子ども一人ひとりの行いを名指しで指摘する点、そして最後に 歳玉という具体的な祝福を残していく点で、性格を異にします。地域や親があらかじめ子どもの 情報をトシドン役に伝えておくという「仕込み」の要素も、この行事のユニークな特徴です。

文化的な評価

ユネスコが認めた、来訪神という信仰のかたち。

「甑島のトシドン」は1977年に国の重要無形民俗文化財に指定され、2018年には前述のボゼと 同じく、「来訪神:仮面・仮装の神々」としてユネスコ無形文化遺産に登録されました。 年に一度、異形の姿をした神が人間界を訪れ、人々を戒めたり祝福したりして去っていくという 「来訪神」信仰は、日本各地の離島や山間部に点在しており、甑島のトシドンはその代表格の ひとつに数えられています。

しかし、この行事は決して安泰というわけではありません。過疎化と少子高齢化が進む甑島では、 トシドン役を担う若者の減少や、対象となる子ども自体の減少により、集落によっては行事の 継続が難しくなっているところもあります。ユネスコ登録は、こうした行事の価値を国際的に 認めると同時に、その存続の危うさを浮き彫りにする結果にもなっています。

次に読むなら

離島に残るのは、祭りだけではない。

鹿児島の離島には、こうした祭礼だけでなく、平家物語にまで連なる悲劇の伝承地も残っています。 鬼界カルデラの外輪山の一角、硫黄島に伝わる「俊寛」の物語を紹介します。

俊寛と鬼界ヶ島を読む →

写真で見る

トシドンの仮面

長い鼻と、藁をまとった異形の来訪神。

赤い顔と大きく裂けた口、藁の髪を持つトシドンの仮面
トシドンの仮面(展示例)甑島の来訪神
広告 広告スペース(AdSense設置予定)